「もう自由には登れない。かつて歩きまわった想い出の山へ、愛する家族を画面のなかでつれて行こう。 だから、妻は若く、子供たちは幼い」
これは、数年前にヒュッテ ジャヴェルの「霧ヶ峰 山の會」で紹介されていた、山をこよなく愛した版画家畦地梅太郎の言葉です。
一昨年前に大病を患った私も、「もう山には登れない」と感じはじめていました。そんな折、ヒュッテ ジャヴェルの高橋保夫さんの言葉が、その後の山との付き合いかたのヒントを与えてくれました。
「霧ヶ峰は山頂に達することだけのものではなく、山の空気の中に身を置き、静かに山と向き合い、際限のない自然の奥深さを感じるための場ではないでしょうか。
また、ヒュッテは単に山の一夜を過ごすための宿泊施設というだけではなく、霧ヶ峰を逍遥する人たちが、ともに高原での時間を共有し、それぞれの感性と知識を持ち寄り、自然について語りあい、霧ヶ峰への思いを豊かに膨らませる舞台ではないでしょうか」
そんな言葉のもとに、いまも私の霧ヶ峰やヒュッテ ジャヴェルとの付き合いは続いています。 今年の夏休みに、孫たちを連れて霧ヶ峰を訪れました。
孫たちの世代にも、霧ヶ峰の空気や水や生きものたちを通じて、自然の奥深さを感じてほしいと思っています。彼らは夏の日記帳に霧ヶ峰をどのように描いたのでしょう。
やがて私が霧ヶ峰を訪れることができなくなった後も、孫たちの世代が自然を感じ、語り合う場として、ヒュッテ ジャヴェルの薪ストーブの火が燃え続けていてほしいと思っています。
「原風景文化研究会・主宰・大阪在住」